夏休みの自由研究を、ぜんぶ一人でやったことはありますか。
図書室で本を10冊借りて、要点をノートにまとめて、模造紙に清書して、発表の練習もして……。これを全部、一つの机の上でやろうとすると、どうなるでしょう。机が紙だらけになって、「あれ、さっきのメモ、どこに置いたっけ?」となる。私はいつもこうなります。
実は、AIにもまったく同じことが起きます。今日はその話です。
AIにも「机の広さ」がある
AIには「一度に覚えていられる量」に限りがあります。これを少し難しい言葉で コンテキスト と言うのですが、イメージは「AIの机の広さ」だと思ってください。
最初はスッキリした机で、AIはきびきびと答えてくれます。でも長く作業を続けると、調べたこと・途中のメモ・読み込んだファイルが、どんどん机に積み上がっていく。やがて机がいっぱいになると、人間とまったく同じで、最初に決めたことを忘れたり、答えがぼんやりしてきたりするのです。
「じゃあ机を片付ければいい」と思うかもしれません。たしかに、会話をまるごとリセットすれば机はきれいになります。でもそれだと、今まで積み上げてきた大事な話も一緒に消えてしまう。せっかく1時間かけて整理した内容が、ゼロに戻ってしまうわけです。これは困ります。机はきれいにしたい、でも中身は残したい。この両立が、ずっと難しい問題でした。
「だったら、机がもっと大きいAIを使えばいいのでは?」とも思いますよね。でも、机を大きくすればするほど、AIは「どこに何があるか」を探すのに時間がかかります。広い部屋ほど物が見つけにくいのと同じです。ただ大きくすればいい、という単純な話でもないのです。
Sub-agents は「班の役割分担」
そこで登場するのが、今日のテーマ Sub-agents(サブエージェント) です。日本語にすると「補助の係」。ひとことで言うと、AIが、別のAIに作業を分担させるしくみ のことです。
班の調べ学習を思い出してください。一人で抱え込まず、「本を探す係」「要点をまとめる係」「清書する係」に分けますよね。Sub-agents も、これとまったく同じ発想です。
ここで一番大事なのは、係の人はそれぞれ自分の机を持っている ということ。本探し係がどれだけ机を広げて散らかしても、班長(あなた)の机は散らかりません。そして係は、作業が終わったら「はい、要点はこれです」と 完成品だけ を渡してくる。途中のぐちゃぐちゃは、班長の机には一切届かないのです。
つまり Sub-agents とは、「散らかる作業を別の机に追い出して、自分の机をきれいに保つ」しくみ だと言えます。さっきの「机はきれいに、中身は残したい」という難しい問題への、ひとつの答えになっているわけです。
係には3つの特徴がある
もう少しだけ中身を見てみます。係(サブエージェント)には、3つの特徴があります。
① 自分の机を持っている さっきの話のとおりです。係が10冊の本を読み散らかしても、その散らかりは係の机の中だけ。班長には要約が一枚返ってくるだけです。
② 渡す道具を絞れる 班長は、係ごとに渡す道具を変えられます。清書係にはペンと模造紙だけを渡して、ハサミは渡さない。そうすれば、清書係がうっかり模造紙を切ってしまう事故が起きません。AIでも同じで、「読むだけの係」には、書き込む道具をあえて渡さないようにできます。すると、大事なファイルを勝手に書き換えてしまう事故を、最初から防げるのです。道具を持っていなければ、間違えようがない。シンプルですが、これが一番たしかな事故の防ぎ方です。
③ 報告だけ返す 係は、頼まれた仕事を自分の机で済ませて、結果の要約だけを返します。班長はいちいち途中を見にいかなくていい。だから班長の机=頭の中は、いつもスッキリしたままでいられます。
「誰に頼むか」も選べる
もう一つ面白いのが、係に「誰を割り当てるか」を選べる ことです。
本を運ぶだけの簡単な仕事なら、足が速くて元気な1年生に頼めばいい。難しい分析は、一番頭のいい3年生に頼む。全部の仕事に、わざわざ3年生を呼ぶ必要はありませんよね。
AIにも、これとそっくりな選択肢があります。速くて安い子 と、賢いけれど時間とお金がかかる子 がいて、仕事の重さで使い分けるのです。実際、AIの「探しもの係」には、わざと速くて安い子が割り当てられていることが多い。検索のような単純作業に、一番賢い子を呼ぶのはもったいないからです。逆に言えば、本当に頭を使う場面では、ちゃんと賢い子を呼ぶ。適材適所、というやつです。この使い分けがうまいほど、速くて、安くて、しかも質の高いチームになります。
私が実際にやっていること
ここからは、地方在住の私が実際にやっていることを紹介します。
私は、縦型の短い動画(ショート動画)を作るのに、8つの係 を用意しています。「ネタ出し係」「台本係」「字幕係」「説明文係」「声をつける係」……といった具合に、一本の動画ができるまでの流れを、係で分けているのです。工場の流れ作業を思い浮かべてもらうと近いかもしれません。前の係が仕事を終えたら、その完成品を次の係に渡していく。
なかでも台本係だけは特別に分厚いマニュアル(指示書は400行以上あります)を持っていて、まさに「専門家ほど分厚い手引きを持つ」を地でいっています。おもしろいのは、ネタ出し係は「字幕の付け方」を知らなくていいし、声をつける係は「ネタの考え方」を知らなくていい、ということ。それぞれが自分の担当だけに集中できるので、一つひとつの仕事の質が上がるのです。
もう一つ、お金の判断をしてくれるAIも作りました。これは賢さの使い分けがはっきりしています。毎日の細かい判断は速くて安い子に、大事な戦略の判断だけ賢い子に回す。お金になおすと、ふつうの判断は1回あたり約0.04円、調べものを伴う判断でも約0.21円ほど。小さな額ですが、チリも積もればなので、係ごとに値段を意識しています。
正直な話、いいことばかりではない
ただ、いいことばかりではありません。ここは正直に書きます。
係を増やすと、その分 お金(AIに払う料金)がかかります。AIを作っている会社自身が、「係をたくさん使うやり方は、一人でやるときの約7倍のコストになることがある」と注意しているほどです。
私自身、さっきのお金の判断AIを 一度止めました。理由は単純で、賢い子に何でも調べさせていたら、調べるたびに料金がかかって、かえって判断そのものが雑になってしまったからです。係を増やせば増やすほど賢くなる、というわけではないんですね。
だから今の私のルールは、「一人でできることは、一人でやる」。机が散らかりそうな大仕事のときだけ、係に分ける。これくらいがちょうどいいと思っています。
まとめ
Sub-agents をひとことでまとめると、「賢いAIほど、一人で抱え込まない」 です。
できる人ほど仕事を抱え込んでパンクする、というのは、人間の世界でもよく聞く話です。AIの世界では、机を分けて、道具を絞って、報告だけを受け取る ―― この当たり前の段取りが、ちゃんと形になっています。
抱え込まないこと。これは中学生の班活動でも、大人の仕事でも、たぶん一生使えるコツなんだと思います。そしてそれを、AIが当たり前のようにやってのける時代が、もう来ているのです。
また会いましょう。
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