連載第3回。前回の終わりで、私はこう書いた。
「次回は、今までAIに頼めなかった部屋を1つだけ選んで、自分の手でつないでみる」と。
今日は、その約束を実際にやってみた回だ。
うまくいった所も、途中でビビって引き返した所も、ぜんぶそのまま書く。先に言っておくと、コードは1行も書いていない。それでも、ちゃんと1本つながった。
第1章 どの部屋にするかで、いきなり立ち止まった
前回の例え話を覚えているだろうか。
AIを「お使い係ロボット」、つなぎたい先のサービスを「部屋」に例えた。MCPは、ロボットがどの部屋にも“ちゃんとした入り方”で入れるようにする、共通のマニュアルだった。
今回つなぐ部屋を、私は最初、こうしようと思っていた。
メールだ。
AIに自分のメールを見せておけば、「あの人から返信きた?」と聞くだけで教えてくれる。便利そうだ。設定画面に、メールをつなぐボタンもちゃんとあった。
でも、ボタンを押す直前で、手が止まった。
メールの部屋には、何が置いてあるだろう。仕事の連絡、知り合いとのやり取り、人の名前、住所、もしかしたら他人の個人情報。それを丸ごとAIに「見ていいよ」と許可するのは、ちょっと待てよ、と思った。
前回の例えで言えば、職員室どころか、いきなり校長室の合鍵を渡すようなものだ。
だから、変えた。もっと軽い部屋から始めることにした。カレンダー、つまり予定表だ。予定なら、メールほど重たい中身は入っていない。
正直に書くと、この「やっぱりやめておこう」と引き返したことが、今日いちばん書いておきたいことかもしれない。
便利そうだから、で全部つないでしまうのは簡単だ。でも、いったん立ち止まって「この部屋、AIに見せて大丈夫か?」と考える。その一拍が、たぶんいちばん大事なところだ。コードが書けるかどうかとは、まったく関係のない話でもある。
第2章 つないでみたら、拍子抜けするほど簡単だった
部屋を決めたら、あとは早かった。
設定の画面に「コネクタ」という項目がある。これが、つなぎ先の部屋を選ぶ場所だ。そこにカレンダーの名前が並んでいる。「接続」を押す。
すると、見慣れた画面が出る。「このアプリにアクセスを許可しますか?」という、あれだ。スマホで新しいアプリを入れたことがある人なら、一度は見たことがあるはずだ。
許可する。それだけ。
コーヒーを一口飲むくらいの時間で、終わってしまった。難しい設定も、長い説明文も、なかった。
ちなみに私は、自分の私生活とは別に、実験用のアカウントを1つ用意して、そこでつないだ。万が一にも、本当の予定がそのまま出てしまわないように。これも、第1章の「立ち止まる」と同じ用心だ。
第3章 許可の画面で、いいものを見つけた
ただ、「許可する」を押す前に、1つ気づいたことがある。これが地味にいい発見だった。
AIに「カレンダーで何をやらせるか」が、最初からきれいに2つのグループに分かれていたのだ。
ひとつめは「見るだけ」のグループ。予定を見る、空いている時間を調べる、といったこと。これは最初から「常に許可」になっていた。見るだけなら勝手にやってくれていい、という設定だ。
ふたつめは「書き換える」グループ。予定を作る、予定を消す、招待に返事をする、といったこと。こっちは「実行する前に、毎回あなたに確認します」になっていた。
つまり、AIが私の予定を勝手に消したりは、しない。消す前に必ず「これ、消していいですか?」と聞いてくる設定に、最初からなっていた。
これは、安心した。
考えてみてほしい。第1章で私は、メールの部屋の前で「ちょっと待てよ」と立ち止まった。あの慎重さと、まったく同じものが、実は仕組みの側に最初から組み込まれていた。
賢いお使い係ロボットでも、部屋の物を勝手に捨てたりはしない。捨てる前には、必ず人に聞く。そういうふうに、もともと作られている。
「AIに任せると、勝手に何かされそうで怖い」と思っている人は、たぶん多い。私もそうだった。でも、少なくともこの部屋のドアには、「見るだけ」と「書き換える」をきちんと分ける仕切りが、最初からついていた。
第4章 つないだのに、動かなかった
さあ、つないだ。これでAIに「私の今週の予定、教えて」と聞けば、すぐ答えてくれる――と思った。
ところが。
私がいつも相談に使っている、いつもの会話画面でそれを聞いても、AIはカレンダーを見てくれなかった。
あれ。ちゃんとつないだはずなのに。
少し考えて、わかった。繋いだだけでは、ダメだったのだ。
例えるなら、お使い係ロボットに合鍵を渡しただけで、「今、その部屋に入っていいよ」とは言っていない状態だ。鍵を持っていることと、今この瞬間に使っていいことは、AIにとっては別の話らしい。
そこで、新しい会話を開いた。まっさらな状態で、そこで改めて「今週の予定を教えて」と頼んでみた。
すると、今度はちゃんと動いた。
ここでも1つ、勉強になった。「つなぐ」と「使う」は、別の動作なのだ。最初から全部わかっていたわけじゃない。詰まって、考えて、やり直して、ようやく進んだ。
第5章 そして、AIが私のカレンダーに入っていった
最後に、いちばん見たかった場面だ。
新しい会話で、私はこう打った。「今週の予定を教えて」
すると画面に、AIの動きが、順番に表示されていった。
まず、「どんなカレンダーがあるか、一覧を見ますね」。
次に、「目的のカレンダーを見つけました。今週の範囲で、予定を取ってきます」。
そして――
「今週の予定はこちらです。土曜の10時から11時に、記事の執筆が1件入っています」
画面に、私が実験用に入れておいたたった1件の予定が、きちんと表示された。
前回の例え話の、あの場面を覚えているだろうか。お使い係ロボットが、ちゃんとした入り方で部屋に入って、必要なものだけ取ってきて、戻ってくる。
それが、文字どおり、目の前で起きた。
AIは、まずどんな部屋があるか調べて、目的の部屋を見つけて、ちゃんとした入り方で入って、今週ぶんの予定だけを取り出して、私に見せた。私は、ただ日本語で「教えて」と打っただけだ。
コードは、やっぱり1行も書いていない。
まとめ
今日やったことを、ひとことで言う。
私は、AIに「私の予定表を見るための合鍵」を、自分の手で1本だけ渡した。
たぶん大事なのは、「すごい技術を使った」ことじゃない。
コードの書けない、地方に住むただの会社員が、メールの部屋の前ではちゃんと立ち止まれて、カレンダーの部屋なら入り方を渡せた。「どこまでなら、自分でAIに触らせていいか」――その線を、自分の手で1本だけ引けたこと。それが、今日の収穫だと思っている。
失敗もした。途中で部屋を変えた。つないだのに動かなくて、やり直した。それでも、止まらずに1本つなげた。
MCPは、遠くの誰かのためのすごい仕組み、ではなかった。私のような人間が、コーヒー一杯ぶんの時間で、こわごわ1本、自分の手で触れるものだった。
次回予告
今回つないだのは、「見るだけ」の入り方だった。
次回は、もう半歩だけ進んでみたい。今度は、AIに「予定を作っておいて」と頼んでみる。見るだけだった部屋に、初めて“書き込む”側の手をかける話だ。
たぶん、また少しビビると思う。けど、その様子も、そのまま書く。
また会いましょう。