連載第6回。今日は、AIに「記憶」を持たせる話を書く。
AIをふだん使っていて、一番地味につらいのは、たぶんこれだ。
毎回、昨日まで何を話していたかを、説明し直さないといけない。
「昨日、あの記事の構成を考えてもらってましたよね。第3章だけまだ書きかけで……」と打ち始めたところで、AIから返ってくるのは、こうだ。
「すみません、過去のやり取りは記録に残っていません。最初から教えてもらえますか?」
毎日これだ。やる気が、ちょっと、削られる。
今日は、その問題を、自分の手元で解決した話を書く。
第1章 AIには「会話が終わるたびに机を片付けるクセ」がある
第1回でも触れた話だが、もう一度書く。
ふつうのAI、つまりブラウザの中で会話するAIたちは、ひとつの会話が終わると、机をまっさらにリセットするようにできている。
「新しい会話を始める」のボタンを押した瞬間、それまでに話したことは、机から全部しまわれる。次に開いたとき、AIは「はじめまして」の顔をしている。
これにはちゃんと理由がある。机を片付けないと、毎日少しずつ紙が積もっていって、AIの机がパンクしてしまうからだ。あなたの家の机を、何年も一度も片付けなかったらどうなるか、と想像してもらうと近い。
だから、リセット自体は、必要なことなのだ。
問題は、リセットされたら困るような大事な話まで、一緒に消えてしまうこと。
3か月前に決めた発信の方針、先月組み上げた仕組みの設計、先週まで一緒に直していた記事の構成。それを毎回ゼロから話し直すのは、ものすごく無駄だ。
「机はきれいにしたい。でも、大事なメモは残したい。」
ここをどう両立させるか。これが、AIに記憶を持たせるという話の正体だ。
第2章 「ノート1冊」をAIの隣に置いておく
私がやったのは、ものすごくシンプルな発想だ。
AIの隣に、ノートを1冊置いておく。
そのノートには、「大事な話だけ」を、自分で書き留めておく。AIの机は毎回きれいにリセットされてもいい。でも、ノートは、私のパソコンの中にずっと残る。
そして、新しい会話を始めるときに、AIに言う。
「このノートだけ、まず読んでおいてくれる?」
AIは、まっさらの机のままノートを読んで、「ああ、なるほど。3か月前にこういう話をしていたんですね」と理解した状態で、その日の会話を始められる。
教科書のしおりに、似ている。学校で授業が終わるたびに教科書を一回閉じる。でも、次の授業のとき、しおりを挟んだページから始められる。AIの記憶も、これと同じ仕組みでいい。
私がやったのは、AIの教科書に挟むしおりを、自分で作って渡せるようにした、ただそれだけだ。
第3章 ノートは、書くより「探せるか」が9割
ここで、一番大事な落とし穴の話をする。
ノートに書き留める、というのは、誰でも思いつく。問題は、書いたあとに、その中身を探せるかどうかだ。
たとえば、1か月前にAIと「お店の名前を決める話」をしたとする。当時はノートに「店名候補の議論」と書いて残した。1か月後、その話の続きをしたくなったとき、私はどう探すだろう。
ふつうに考えると、「お店」と打ち込めば出てきそうな気がする。
ところが、ふつうの検索の仕組みは、日本語が苦手だ。英語と数字なら、すぐ見つかる。でも、日本語の途中の言葉で探そうとすると、急に何も出てこなくなることがある。
理由を中学1年生向けに説明すると、こうだ。
ふつうの検索は、スペースで区切れる言葉を前提に作られている。英語なら「I have a pen」と単語の間にスペースが入る。だから「pen」だけで探せる。
ところが日本語には、単語の間にスペースがない。「お店の名前を決める話」を、機械から見ると、ただの長い1本のひもにしか見えない。「お店」だけを切り出すのが、機械にとっては、けっこう難しい。
だから、ノートに日本語をたくさん書き留めても、あとから探せないという事故が起きる。
これに気づかずに「記憶帳」を作ると、書く先から砂時計に砂を入れているような状態になる。下からどんどんこぼれて、探したいときに何も残っていない。
これを、ちゃんと探せるようにしたかった。
第4章 私のノートは、3文字ずつ覚える
そこで使ったのは、「3文字ずつ覚える」しくみだ。これだけ覚えて帰ってほしい。
ノートに「お店の名前を決める話」と書いたら、機械はそれを、
- 「お店の」「店の名」「の名前」「名前を」「前を決」「を決め」「決める」「める話」
というふうに、3文字ずつ、ずらしながら全部覚えておく。少し気持ち悪い覚え方だが、これが効く。
なぜか。あとで「お店」で探したいときに、機械は「お店の」「店の名」のどこかに「お店」が含まれていないか、と探せばいい。3文字ずつ覚えてあるので、ちゃんと見つかる。「名前」で探しても、見つかる。「決める」で探しても、見つかる。
英語のときも同じ。「Claude code」と書いてあれば、それも3文字ずつ「Cla」「lau」「aud」……と覚える。だから「Claude」でも「code」でも、ちゃんと出てくる。
日本語の途中の言葉で探しても、英語で探しても、同じノートから一発で見つけられる。これが、私のノートのいちばん大事な仕組みだ。
第5章 昨日のことを、ためしに聞いてみた
実際に使ってみた話を書く。
私は毎日、AIと話したあと、「今日のこの話、覚えておきたい」と思った内容だけ、コマンドを1つ打つ。すると、その内容が、机の隣のノートに書き留められる。書く文字数は、長くて1段落くらい。
今日、それを試しに、こんなふうに聞いてみた。
「先月、お店の名前で話してたやつ、どこまで決まったっけ?」
AIは、私のノートをめくって、こう返してきた。
「3つの候補までは絞り込んでいました。あと、響きが似ている既存のサービスがないかは、当時まだ確認していなかった、とメモが残っています。」
私はちゃんと、それを当時メモしていた。
「ノートに書いたこと、自分でも忘れていたんだな」と苦笑いしながら、その続きを今日の会話で進められた。これが、地味だけど、ものすごく効く。
「昨日の自分が、ちゃんと今日の自分の味方になっている」感覚は、AIに机を片付けさせたままでは、たぶん一生味わえない。
まとめ
AIに記憶を持たせる、というと、すごく難しい技術の話に聞こえる。
でも、私が手元でやっているのは、ノートを1冊作って、AIの隣に置いておく。書いたものは、日本語でも英語でも、3文字ずつ覚えておく。たったこれだけだ。
毎日使うAIが、昨日の話を覚えていてくれる。それだけで、毎日の小さな疲れが消える。地方に住むコードの書けない会社員でも、ここまでなら、自分の手元で組める。
次の回も、また、私の目の前で起きている「AIの新しいできごと」を1つ持ってきます。
また会いましょう。
ここまで読んで、「自分の手元にも、こういう記憶帳が1冊欲しい」と思った方へ。
私が実際に毎日使っている記憶帳の仕組みを、自分の手で動かせる形にまとめたものを、noteで公開しています。Mac でも Windows でも動きます。
仕組みの中身は、3文字ずつ覚える方式と、消えても自分で作り直せる「二重の保存」だけです。私自身、毎日これに助けられています。
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コードが書けない私が、自分の困りごとを解決するために作った仕組みを、そのまま使える形で公開しています。すべて、私が実際に自分で使っているものです。
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